1回に摂取するたんぱく質の量と筋たんぱく質合成の関係は、運動栄養学で繰り返し研究されてきました。ところが、論文によって「20g付近で合成反応が頭打ちになった」「40gでより大きな反応が見られた」「100gでも長く反応が続いた」と、結論の表現が異なります。これは必ずしも研究結果の矛盾を意味しません。たんぱく質源、運動内容、測定時間が異なれば、評価している現象も変わります。本稿では、実際のヒト介入研究3件を比較します。
筋たんぱく質合成は何を測っているのか
筋たんぱく質合成とは、筋肉を構成するたんぱく質が体内で新たにつくられる過程を指します。紹介する研究では、安定同位体で標識したアミノ酸を追跡し、運動後の一定時間内における合成速度を推定しています。
この方法は短時間の代謝反応を捉えるために有用ですが、数週間から数か月後の筋量や筋力を直接測るものではありません。また、観察時間が4時間か12時間かによって、確認できる反応の範囲も異なります。筋たんぱく質の合成は、食事や運動による筋肉の長期的な変化を考えるうえでの一つの指標です。
研究①:卵たんぱく質を5段階で比較した2009年の試験
Mooreらは、健康な若年男性6人を対象に、脚を中心とした高強度の筋力運動後、全卵由来のたんぱく質を0、5、10、20、40g摂取する条件を比較しました。同じ参加者が5条件を経験し、摂取後4時間の筋たんぱく質合成などを測定しています[1]。
研究では、摂取量に伴う合成速度の上昇が20g付近まで認められました。一方、40g条件では20g条件を上回る合成反応は確認されず、ロイシンの酸化は増えていました。
ただし、参加者はわずか6人で、対象は脚の運動後の4時間です。ここで観察された頭打ちを、すべての人、すべての食品、あらゆる運動後の摂取量の上限と解釈することはできません。
研究②:全身運動後にホエイ20gと40gを比較
Macnaughtonらは、筋力トレーニング経験のある健康な若年男性30人を対象に、全身のレジスタンス運動後のホエイたんぱく質20gと40gを比較しました。各参加者が両方の摂取条件を経験する無作為化・二重盲検のクロスオーバー試験で、運動後5時間の筋原線維たんぱく質合成速度を測定しています[2]。
全参加者を合わせた解析では、合成速度は20g条件より40g条件で高く、統計学的な群間差がありました。一方、除脂肪量が多い群と少ない群の間では、反応の明確な違いは認められませんでした。
研究①とはたんぱく質源が異なり、運動に参加した筋群も広く、測定対象のたんぱく質画分も異なります。そのため、「20gでは足りない」という一般論ではなく、この実験条件における差と理解することが適切です。
研究③:25gと100gを12時間追跡した2023年の試験
Trommelenらは、日常的に運動する健康な若年男性36人を対象に、全身のレジスタンス運動後、ミルク由来たんぱく質を0、25、100g摂取する3群の試験を実施しました。各群12人を対象として複数の安定同位体を用い、摂取後12時間にわたるアミノ酸の動態と筋たんぱく質合成を解析しました[3]。
研究では、100g条件の反応が25g条件よりも長く持続し、12時間全体で捉えた合成反応にも差が報告されました。短い時間枠では見落とし得る、持続時間の違いを示した点が特徴です。
しかし、この試験は100gより多い摂取量を検証しておらず、研究対象も若年男性に限定されます。論文の結果から「上限が存在しない」とあらゆる条件へ一般化したり、100gを1回の摂取目標として推奨したりすることはできません。
3件の結果が違って見える理由
2009年試験は全卵由来のたんぱく質と脚の運動を組み合わせ、4時間を観察しました。2016年試験はホエイと全身運動を用い、5時間を調べています。2023年試験ではミルク由来たんぱく質と全身運動を組み合わせ、12時間を測定しています。
また、同じ「筋たんぱく質合成」でも、混合筋たんぱく質と筋原線維たんぱく質など、分析対象が異なる場合があります。摂取量だけを切り出して数値を比較すると、こうした違いが見えなくなります。
2023年研究の解釈については、2024年に発表された専門家の論評でも、長期の筋肥大への外挿や食事ごとの配分への応用を慎重に考える必要性が指摘されています[4]。
資金提供と利益相反も確認する
2016年の研究には、GlaxoSmithKline Consumer Healthcareから研究助成を受けたことが記載されています[2]。2023年の研究では著者の1人が乳業企業FrieslandCampinaの従業員であることを開示し、同社は資金提供、データ収集・解析、論文作成に関与していないと記されています[3]。
2009年研究の詳細な資金提供・利益相反については、今回確認した資料の範囲では網羅的な評価を行っていません。研究資金や著者の関係は結果の真偽を単独で決めるものではありませんが、論文を読む際の重要な情報です。
まとめ:数値だけで「最適量」は決められない
この3件は、摂取量による急性の合成反応が、試験条件と観察時間によって異なって見えることを示しています。一方、いずれも1回の摂取量だけで長期的な筋量、筋力、健康状態がどう変わるかを直接証明したものではありません。年齢、性別、体格、運動経験、食事全体の条件が変われば、同じ結果になるとは限りません。
本記事は公表論文の研究方法と結果を紹介するものです。研究で使用された量は個人への摂取推奨を意味せず、いずれの論文もGAAHの最終製品の効能や安全性を検証したものではありません。医療上の助言や疾病の治療・予防に関する表示を意図するものでもありません。
参考文献
- Moore DR, Robinson MJ, Fry JL, et al. (2009). Ingested protein dose response of muscle and albumin protein synthesis after resistance exercise in young men. The American Journal of Clinical Nutrition, 89(1), 161–168. DOI: 10.3945/ajcn.2008.26401; PMID: 19056590. PubMed
- Macnaughton LS, Wardle SL, Witard OC, et al. (2016). The response of muscle protein synthesis following whole-body resistance exercise is greater following 40 g than 20 g of ingested whey protein. Physiological Reports, 4(15), e12893. DOI: 10.14814/phy2.12893; PMID: 27511985. PubMed
- Trommelen J, van Lieshout GAA, Nyakayiru J, et al. (2023). The anabolic response to protein ingestion during recovery from exercise has no upper limit in magnitude and duration in vivo in humans. Cell Reports Medicine, 4(12), 101324. DOI: 10.1016/j.xcrm.2023.101324; PMID: 38118410. PubMed
- Witard OC, Mettler S. (2024). The Anabolic Response to Protein Ingestion During Recovery From Exercise Has No Upper Limit in Magnitude and Duration In Vivo in Humans: A Commentary. International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism, 34(5), 322–324. DOI: 10.1123/ijsnem.2024-0041; PMID: 38991545. PubMed
