元論文:https://www.toukastress.jp/webj/article/2022/GS22-16j.pdf
目的
老化・寿命と代謝の制御はNADを介して全身的に統合されているとする「NAD world」(ワシントン大学今井眞一郎教授提唱)は、世界的な注目の中で様々な角度から研究が進みつつあるが、ヒトでの臨床研究の報告は少ない。本研究では、NADの前駆体であるNMN(nicotinamide mononucleotide)経口摂取によるヒトにおける各種バイオマーカーの推移を調べ、その臨床的な意義について評価する。
方法
倫理審査での研究開始承認のもとに、本研究参加に同意した基礎疾患のない閉経後女性 17名(平均年齢 55.0歳)を被検者とし、高純度NMN 300 mg/日を 8 週にわたり経口摂取した。検査項目は、身体計測、基礎代謝量、血圧、握力、糖化度(AF値)、血液生化学検査、各種ホルモン、血中sirt1 mRNA発現量とNMN・NAD・NAM 量、免疫検査(老化、疲弊細胞を含む T 細胞サブセット)、肌のVAS(visual analog scale)で、0 週と 8週で統計解析を行い比較検討した(4 週の時点で血液生化学検査を行い安全性を確認)。
また、NMN 摂取状況や、体感、副作用などをみる目的で経過中の日誌記載を依頼した。
結果
被検者17名のうち 1名が軽度の頭痛が続くため 4 週経過の時点で脱落した。NAM(nicotinamide/ビタミンB3)45. 2 → 164.7(p < 0.001)、アディポネクチン13.6 → 16.2(p = 0.004)、肌VASスコア(6/7 項目で p < 0.001~ p = 0.001)と摂取前後で有意な変化を認めた。さらに、BMI、AF値、血小板、HbA1c、HDL-c、アミラーゼ、DHEA-s、NAD、狭義の制御性 T細胞についても有意差を認めた(以上 p < 0.05)。また、全被検者で肌や睡眠、疲労などで良い体感がみられている。完遂した16名の自覚症状、検査データに問題はみられなかった。
結論
NMN 300 mg/日、8 週間の経口摂取ではとくに安全性に問題はなく、多くのバイオマーカーで好ましい変化が示された。NAD worldの一員であるNMNは、ヒトにおいても老化や代謝制御のための有力な栄養素材となりうる可能性が示唆された。