健常中年日本人男性に投与

健常中年日本人男性に投与

元論文:https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2024/1/24/240124-1.pdf

                    

研究の背景と概要  

動物を用いた研究により、体内に存在している NAD+は、加齢とともにさまざまな臓器で減少し、糖尿病などの加齢に伴って増加する疾患の原因となることが米国ワシントン大学医学部の今井眞一郎教授らの研究によりわかってきました。さらに最近では、ヒトにおいても、肝臓や脳などの主要な臓器で加齢に伴い NAD+量が減少することも明らかにされてきました。本研究グループは、超高齢社会において、加齢とともに増える疾病の予防戦略として NAD+を体内で作るための材料である NMN に着目し、基礎・臨床研究を展開してきました。

 

2019 年に、同研究グループは、今井眞一郎教授らとともに、NMN をヒトに投与する臨床研究を世界で初めて行いました。具体的には、40 歳以上 60 歳以下の健康な男性 10 人を対象に、研究期間中同じ方に 100 ㎎、250 ㎎、500 ㎎と異なる量の NMN を経口で各 1 回投与しました。すべての用量で NMN の摂取は、①安全に投与可能であること、②投与した量に応じて体内で代謝されていることを確認し、500 ㎎の単回投与までは安全にヒトに使用可能であることを報告いたしました (5.関連プレスリリース)。この度、NMN を長期間ヒトへ投与したときの安全性を調べる臨床研究を、伊藤裕名誉教授を研究責任医師、坪田一男名誉教授・安井正人教授・山口慎太郎専任講師らを研究分担医師として行いました。          

 

研究の成果と意義・今後の展開

今回の長期投与の研究では、40 歳以上 60 歳以下の健康な男性 14 人を対象に、NMN を 8週間、連日朝食前に 250 ㎎経口投与しました。NMN の摂取期間に応じて、末梢臓器 (末梢血単核球中)の NAD+量は増加しました。血圧、脈拍、体重などに変化を認めず、視力などの目の機能、睡眠の状態にも影響を与えませんでした。肝臓や腎臓などの機能をみる血液・尿検査でも NMN 内服に起因すると考えられる変化は認めませんでした。経口ブドウ糖負荷試験による耐糖能検査では、有意な変化は認めませんでしたが、血糖を下げるホルモンであるインスリンの分泌量が多い 3 名では、NMN の内服に伴いインスリンの過剰な分泌が是正される可能性が示唆されました。

 

これらの結果から 8 週間と長期にわたり経口投与された NMN は、健康成人男性において末梢臓器の NAD+量を増加させ、安全に使用可能であること、加えて耐糖能が軽度でも障害されているヒトにおいては改善効果をもたらす可能性があると考えられました。NMN は、長寿遺伝子「サーチュイン」を活性化するための有力候補の一つです。今回の臨床研究によって、NMN を健康なうちから長期間ヒトに安全に投与できることが確認され、ヒトにおける NMN を利用した老化関連疾患の発症予防に向けた栄養学的アプローチによる研究の発展が一層期待されます。

 

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