「EAA」と「BCAA」は、どちらもアミノ酸に関する言葉です。しかし、両者は対立する二つの成分群ではありません。BCAAは、EAAに含まれる3種類のアミノ酸を指します。この分類上の関係と、サプリメントなどを用いたヒト介入研究の結果は、分けて理解する必要があります。本稿では、必須アミノ酸の基礎を確認し、筋たんぱく質代謝を調べた3つの研究から、分かることと残された課題を整理します。
EAAは9種類、BCAAはそのうち3種類
必須アミノ酸(Essential Amino Acids:EAA)は、ヒトの体内で必要量を十分につくることができず、食事から摂取する必要がある9種類のアミノ酸です。ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリンが該当します。
分岐鎖アミノ酸(Branched-Chain Amino Acids:BCAA)は、そのうちロイシン、イソロイシン、バリンの3種類です。したがって、BCAAとEAAを完全に別の栄養素のように扱うのは正確ではありません。また、筋たんぱく質を構成するには多種類のアミノ酸が必要であり、特定のアミノ酸が細胞内の合成シグナルに関わることと、それだけで長期的な筋量が増えることは同じではありません。
研究を比較する前に、測定項目を確認する
今回紹介する研究は、いずれもヒトを対象とした介入研究です。ただし、対象者の年齢、運動の有無、摂取する組成、比較群、観察時間が異なります。研究の中心となるのは、安定同位体で標識したアミノ酸などを利用した筋たんぱく質の合成速度や、筋肉へのアミノ酸の正味取り込みを示す代謝指標です。
これらは短期的な生理反応を調べる手法であり、長期の筋量、筋力、健康状態を直接評価したものではありません。以下では、群内の変化と群間の差も区別して読みます。
研究①:EAAと非必須アミノ酸を加えた混合物の比較
Volpiら(2003年)は、健康な高齢者14人を対象に、18gのEAAを用いる群(6人)と、18gのEAAに22gの非必須アミノ酸を加えた計40gの混合物を用いる群(8人)を比較しました。いずれもアミノ酸を少量ずつ約3時間にわたって経口投与し、下肢のアミノ酸代謝を測定しました[1]。
筋たんぱく質の合成と正味のアミノ酸バランスは、両群とも摂取前より変化しました。一方、正味バランスの反応について明確な群間差は認められませんでした。これは、この研究条件において非必須アミノ酸22gを追加することによる上乗せが確認されなかったという結果です。
ただし、この研究は「EAA対BCAA」の直接比較ではありません。両群にEAAが同量含まれ、運動後の試験でもありません。例数も少ないため、日常生活での長期的な身体機能への影響は判断できません。
研究②:BCAAだけを摂取した運動後の試験
Jackmanら(2017年)は、筋力トレーニング経験のある若年男性10人を対象に、レジスタンス運動後に5.6gのBCAA飲料またはプラセボを摂取する条件を比較しました。同じ参加者が両条件を経験し、その後4時間の筋原線維たんぱく質合成を追跡しました[2]。
BCAA条件では、プラセボ条件と比べて合成速度の反応が約22%高いと報告されています。ただし、この試験ではEAA9種類を含む飲料との直接比較は行っていません。論文では、ほかの必須アミノ酸を同時に供給しない条件では、反応が最大になるとは限らないことも論じています。
「プラセボより測定値が高かった」という結果を、「BCAAだけで十分である」、あるいは「長期間に筋量が増える」と言い換えることはできません。
研究③:BCAAと乳たんぱく質では反応の持続時間が異なる
Fuchsら(2019年)は、健康な高齢男性45人(平均年齢約71歳)を無作為に割り付け、6gのBCAA、6gの分岐鎖ケト酸(BCKA)、30gの乳たんぱく質を含む飲料を比較しました。血液と筋生検から、摂取後5時間にわたる筋原線維たんぱく質合成を調べています[3]。
摂取後0~2時間では、3群とも摂取前より合成速度が上昇し、群間の有意差は認められませんでした。一方、2~5時間の後半では、乳たんぱく質群で上昇が持続したのに対し、BCAA群とBCKA群の値は摂取前の水準に近づきました。
ただし、摂取量も成分組成も異なる比較です。乳たんぱく質にはBCAA以外の必須アミノ酸も含まれます。この結果は「EAA9種類の製剤」と「BCAA3種類の製剤」の優劣を直接検証したものではありません。
3つの研究から分かることと限界
研究①はEAAへの非必須アミノ酸の追加、研究②はBCAAとプラセボ、研究③はBCAAとBCKAと乳たんぱく質の比較です。題名に共通してアミノ酸が登場しても、問いは異なります。とくに、数時間の筋たんぱく質代謝指標に差があっても、それが筋量や筋力の長期的な差につながるかは、別の研究で確認する必要があります。
対象者も若年の運動経験者と高齢男性が中心で、女性や幅広い健康状態の人へ直ちに一般化できません。ここに記した摂取量は、それぞれの研究条件を説明するものであり、読者に特定量を勧めるものではありません。
資金提供・利益相反を併せて読む
研究①は米国国立衛生研究所(NIH)などの研究助成を受けたと記載されています。著者には食品・アミノ酸関連企業の研究所に所属する研究者も含まれています[1]。研究②にはGlaxoSmithKline Healthcareからの研究助成が記載され、著者らは利益相反なしと申告しています[2]。研究③では一部の著者が、Evonik Industries、FrieslandCampina、Nutriciaから研究助成や講演料等を受けたことを開示しています[3]。
資金提供があることだけで研究結果を否定する必要はありませんが、誰が研究を実施し、どのような関係を開示したかを含め、複数の独立した研究と照合する姿勢が重要です。
まとめ
EAAは9種類の必須アミノ酸の総称であり、BCAAはその中の3種類です。ヒト研究では、BCAA単独の摂取でも短時間の代謝指標に変化が見られる場合があります。一方、比較する成分、用量、観察時間によって結果の解釈は変わります。今回取り上げた3件だけから、あらゆる人に共通する最適な組み合わせや長期的な有用性を判断することはできません。
本記事は公開論文に基づく科学情報の紹介を目的としています。紹介した研究はGAAHの最終製品を対象とした試験ではなく、個別製品の効能・安全性や疾病の治療・予防を保証するものではありません。
参考文献
- Volpi E, Kobayashi H, Sheffield-Moore M, Mittendorfer B, Wolfe RR. (2003). Essential amino acids are primarily responsible for the amino acid stimulation of muscle protein anabolism in healthy elderly adults. American Journal of Clinical Nutrition. 78(2):250–258. DOI: 10.1093/ajcn/78.2.250; PMID: 12885705. 原典を見る
- Jackman SR, Witard OC, Philp A, Wallis GA, Baar K, Tipton KD. (2017). Branched-Chain Amino Acid Ingestion Stimulates Muscle Myofibrillar Protein Synthesis following Resistance Exercise in Humans. Frontiers in Physiology. 8:390. DOI: 10.3389/fphys.2017.00390; PMID: 28638350. 原典を見る
- Fuchs CJ, Hermans WJH, Holwerda AM, et al. (2019). Branched-chain amino acid and branched-chain ketoacid ingestion increases muscle protein synthesis rates in vivo in older adults: a double-blind, randomized trial. American Journal of Clinical Nutrition. 110(4):862–872. DOI: 10.1093/ajcn/nqz120; PMID: 31250889. 原典を見る
アイキャッチは9種類のEAAとそのうち3種類のBCAAという関係を表現した概念イメージです。分子構造や実験データではありません。
