老いなき世界②
元論文:LIFE SPAN-ヒトはどこまで寿命が延びるのか?
病気から考える老化
ヒトの早老症の一つにウェルナー症候群という病気があります。その原因は WRN と呼ばれる遺伝子であり,この遺伝子が変異すると 30 代や 40 代で老化特有の症状(しわ,白髪,脱毛,骨粗鬆症,心臓の異常など)が現れ,平均寿命は約 46 歳です。
サーチュイン遺伝子
はヒトの WRN遺伝子に相当する酵母の SGS1 遺伝子に注目しました。これらの遺伝子はいずれも DNA ヘリカーゼという酵素をコードしています。野生型の酵母は通常 25 回ほど分裂(出芽)して娘細胞を生み出すと老化して分裂できなくなり死んでしまいます。ところが変異型SGS1 遺伝子を酵母に導入したところ(以下,変異型酵母と略),15 回ほど分裂して死んでしまいました.
核内
"ここで核小体について解説しますと、核小体は核内にあって膜には囲まれていない小区画で光学顕微鏡でも観察できます.この核小体ではタンパク質合成装置であるリボソームを組み立てています。
酵母の交換
老化酵母でみられる ERC を精製して若い酵母に導入するとやはり老化が促進されることからERC の形成が老化の原因であることが示唆されました。つまり,変異型酵母では老化が早く進んでしまったことになります。これはヒトでの早老症(ウェルナー症候群)が酵母でも再現されたことになります。
野生でのこと
もう一つ,変異型酵母では大きな変化が見られました。野生型の若い酵母同士は遺伝子を交換するために「オス」と「メス」で違う接合型タンパク質を細胞膜上に発現して接合できるようになっています。「オス」と「メス」個体ではそれぞれ相手方の接合型遺伝子を発現しないように Sir2 というタンパク質によって抑制されています。
サーチュイン遺伝子再び
Sir2(silent information regulator 2)は,サイレンシングタンパク質(ある特定の遺伝子の発現を抑制する因子)として知られていました。のちに長寿タンパク質として発見されました。ところが変異型酵母では Sir2 が,接合型遺伝子から離れて断片化した核小体に移行しました。