代謝の多様性

代謝の多様性

論文:Nicotinamide Mononucleotide Supplementation: Understanding Metabolic Variability and Clinical Implications       

概要

最近、NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の減少とその対策に関する研究が急増しています。この分野では大きな進展がある一方で、新しい発見がNAD+の仕組みの複雑さを浮き彫りにしています。NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)は、NAD+を増やす効果が期待される物質として注目を集めています。動物実験では、健康への良い影響が確認されています。

 

NMNを補う臨床試験では、結果にばらつきが見られますが、その過程でNMNの代謝の仕組みや腸内細菌、細胞への吸収経路の重要性が明らかになっています。また、生活習慣や健康状態、遺伝、腸内細菌の違いが、試験結果の違いに影響している可能性が示されています。NMNの効果は人の体の状態によって変わる可能性があることも、初期の研究で示唆されています。

 

このような背景を理解することは、NMNによってNAD+の量を調整する効果を正確に評価するために重要です。この論文では、NMNの代謝について現時点で分かっていることを整理し、今後さらに研究が必要な課題を明らかにし、臨床的な意義を深く理解するための方向性を提案します。

 

NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は、すべての生物の細胞内に存在する補酵素で、エネルギー代謝、DNA修復、細胞間の情報伝達、酵素の活性化など、体の基本的な働きに重要な役割を果たします。もともとは酵母の発酵を助ける働きとして発見されました。この発見をきっかけに、NAD+が関わる酸化還元反応や電子のやり取り、糖の分解(解糖系)、クエン酸回路、脂肪酸の分解などの研究が進みました。

 

導入

NAD+は、代謝に関わるだけでなく、重要なタンパク質(サーチュインやPARP、CD38など)と協力して働きます。これにより、細胞内の代謝のバランスを保ち、情報伝達をサポートしています。しかし、NAD+の量は年齢とともに減少し、その結果、神経変性疾患や細胞老化、心血管疾患などの年齢に関連した病気のリスクが高まることがわかってきました。例えば、人間の皮膚では酸化によるDNA損傷が増え、NAD+の量が約70%減少することが観察されています。また、肝臓では45歳から60歳以上で30%減少し、脳でも10~25%減少することが報告されています。

 

NAD+の量を増やす方法として、補助物質(NAD+前駆体)の摂取が注目されています。これにより、酸化ストレスやDNA損傷などの老化の特徴に対抗する細胞の力が強化されるとされています。ただし、この補助物質がどのように細胞や組織に影響を与えるのか、詳しい仕組みを理解するにはさらなる研究が必要です。

 

NAD+の減少を補うために、外部からの摂取や健康的な食事、運動が推奨されています。特に、ビタミンB群やトリプトファンといった栄養素は、NAD+の元となる物質を体内で作るのに役立ちます。この中でNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)は、NAD+を増やすための有力な候補とされています。NMNは細胞内で直接NAD+に変換され、年齢によるNAD+の減少を抑える可能性があります。しかし、NMNの効果や安全性、長期的な影響については、さらなる研究が必要です。NAD+の量を増やすことが、老化に対抗する戦略として期待されていますが、その効果を確かめるためには今後の臨床試験が重要となります。          

 

NAD+の合成経路

NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は、細胞内で十分な量を確保するために、細胞質、ミトコンドリア、核の各領域で特定の酵素や前駆体によって制御される3つの独立した経路によって合成されます。これらの経路は、NAD+の合成、利用、リサイクル、再生のバランスを細かく調整します。

 

1. サルベージ経路

細胞内でNAD+を効率的にリサイクルするこの経路は、細胞プロセスでNAD+が分解されて生成されるニコチンアミド(NAM)を利用します。食事から摂取されるニコチンアミドリボシド(NR)やNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)も、この経路に寄与します。NMNはこの経路で重要な中間体として機能し、新たに発見されたSlc12a8トランスポーターによって細胞内に輸送されます。一方、NRはヌクレオシド輸送体(ENT)を介して細胞内に入り、NRキナーゼ(NRK)によって1段階でNMNに変換されます。その後、NMNはNMNアデニル転移酵素(NMNAT)によって効率的にNAD+に変換されます。この経路では、CD38やサーチュインのようなNAD+を消費する酵素がNAMを生成し、NAMPT酵素によって再びNMNに変換されることでリサイクルが継続します。この仕組みにより、外部資源に依存せずに迅速なNAD+生成と前駆体の補充が可能になります。

 

2. プレイス・ハンドラー経路

この経路は、ビタミンB3(ナイアシン)であるニコチン酸(NA)を前駆体として利用します。魚、鶏肉、ナッツ、穀物、サプリメントなどの食品から摂取されるNAは、3つのステップでNAD+に変換されます。この過程にはNAPRT、NMNAT、NADSといった酵素が関与します。

 

3. デノボ経路

この経路では、食事由来のトリプトファンを使用します。トリプトファンは特定のアミノ酸輸送体(LAT-1やhPAT4)を介して細胞内に入り、複数の酵素反応を経てキノリン酸(QA)に変換されます。その後、QPRT酵素によってNAMNに変換され、プレイス・ハンドラー経路に取り込まれます。この経路は主に肝臓で行われます。

 

NAD+レベルの増加方法

NAD+の量を増やすには、NRやNMNといった前駆体の補充が有効です。これらは直接NAD+合成に関与するため、長い変換経路を必要としません。NRは細胞内でNMNに迅速に変換され、サルベージ経路に取り込まれます。一方、NMNは細胞内で30分以内にNAD+レベルを増加させることが確認されており、経口摂取時にも吸収されやすい特徴があります。マウスを使った研究では、NMNがミトコンドリア代謝の改善やインスリン分泌の向上といった効果を示しています。これらの結果をヒトに応用することは課題ですが、成功すれば加齢関連疾患の画期的な解決策になる可能性があります。

 

これらの研究は、NMNがNAD+を増加させる前駆体として有望であることを示しており、さらに安全性、有効性、長期的影響を明らかにする必要があります。  

<h3 class="title-m mt-40">代謝がサプリメントに与える影響</h3>

NAD+前駆体の補充は、低下するNAD+レベルに対応するための有望な治療アプローチですが、大きな課題として、経口摂取されたNAD+前駆体の生物学的利用能が限られている点があります。これは、消化管(GI)や肝臓での広範な代謝によるものです。

 

代謝がサプリメントに与える影響

 

3.1 消化管(Gastrointestinal Tract)

近年、腸内細菌がNAD+前駆体の代謝に与える影響や、細胞への取り込みメカニズムの複雑さについての研究が進展しています。重要な発見がある一方で、未解明の課題も多く、さらなる研究が必要です。

 

3.1.1 腸内細菌叢との相互作用

NAD+前駆体は、以下の2つの化学グループに分類されます。

 

アミド化前駆体(NR、NMN、NAM)

脱アミド化前駆体(NA、NAMN、NAAD)

これまで、これらのグループはそれぞれ異なる経路をたどると考えられていました。

 

代謝がサプリメントに与える影響

アミド化前駆体 → サルベージ経路(NR → NMN → NAD+)

脱アミド化前駆体 → プレイス・ハンドラー経路(NA → NAMN → NAAD → NAD+)

しかし、NR(アミド化前駆体)の補給後に血中でNAAD(脱アミド化中間体)の増加が観察されたことで、この認識が変わりました。この予想外の発見は、これらの経路が相互作用している可能性を示唆しており、哺乳類でのNAD+生成に新しい酵素活性が関与している可能性があります。

 

腸内細菌の役割

研究によると、腸内細菌酵素のPncCがNMNを脱アミド化してNAMN(脱アミド化前駆体)に変換し、プレイス・ハンドラー経路を通じてNAD+を合成することが確認されました。さらに、腸内細菌がNAMをNAやNAADに変換する過程が、腸や肝臓でのNAD+生成に重要な役割を果たしていることもわかっています。

 

NMNと腸内細菌の相互作用

腸内細菌を持たない無菌マウスでは、NMNが微生物による脱アミド化を免れ、サルベージ経路を通じてNAD+を増加させました。一方で、抗生物質治療を受けたマウスでは、腸内のNAD+関連代謝物(NMN、NR、NAD+、NAM)のレベルが倍増したことが報告されています。この結果は、腸内細菌が食事由来や体内のNAD+前駆体と競合している可能性を示しています。

 

代謝がサプリメントに与える影響

経口摂取されたNAD+前駆体の運命

経口投与されたNR、NMN、NAMのほとんどは腸内細菌によって分解され、NAMやNAなどの代謝物に変換されます。わずかな量だけが大きな変化を受けずに組織に取り込まれることが示されています。このプロセスの複雑さは、腸内環境とNAD+前駆体の関係をさらに研究する必要性を強調しています。

      

まとめ

腸内細菌とNAD+前駆体の相互作用を理解することは、NAD+補給の有効性を高めるために重要です。腸内環境を調整しながらNAD+レベルを増加させる戦略が、新たな治療法の開発につながる可能性があります。

 

3.1.2. 取り込みメカニズム

NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)が腸管細胞(腸上皮細胞)に取り込まれる経路として、現在2つの主要な経路が認識されています:

 

間接経路:NMNがNR(ニコチンアミドリボシド)に変換される経路。

直接経路:特定のNMNトランスポーターによる輸送。

これらの経路がどの程度重要で、それぞれがどのように寄与しているかは、まだ十分に解明されていません。

 

間接経路

従来のモデルでは、NMNは細胞外酵素CD73によってNRに変換され、ENT(エキウィリブレーティブヌクレオシドトランスポーター)を介して細胞内に取り込まれます。細胞内では、NRK(NRキナーゼ)酵素によって再びNMNに変換され、NAD+生成を促進します。この経路の存在は、NRK酵素が筋肉や肝細胞でNAD+レベルを上昇させるために必要であることを示す研究で支持されています。しかし、この経路には数時間かかる場合があり、腸で観察されるNMNの迅速な吸収(2~3分)や組織での取り込み(10~30分)を説明するには不十分です。

<h3 class="title-m mt-40">代謝がサプリメントに与える影響</h3>

直接経路

新たに発見されたSlc12a8というトランスポーターが、NMNを迅速に細胞内に輸送する役割を果たしていることが示唆されています。このトランスポーターは腸、膵臓、肝臓、白色脂肪組織に多く発現しており、その欠損によりNMNの吸収とNAD+レベルが大幅に低下することが確認されています。

 

3.2. 門脈を通じた輸送

腸で吸収されたNAD+前駆体は門脈を通じて肝臓に運ばれます。マウスにおける研究では、経口投与後の門脈血液中にNAM(ニコチンアミド)やNMNなどの代謝物が検出されましたが、NAMが最も多く、他の代謝物はごく少量でした。また、腸内細菌がNRの代謝に関与していることが示されており、無菌マウスではこれらの代謝物がほとんど検出されませんでした。

 

3.3. 肝臓での初回通過代謝

経口摂取されたNMNは、肝臓でほぼ完全にNAMに変換されます。この変換により、NMNが直接NAD+を合成する機会は制限され、末梢組織に到達するNMNの量も減少します。一方、腹腔内注射や静脈注射などの経口以外の投与法では、腸や肝臓での代謝を回避し、NMNの利用率を高めることが可能です。

 

3.4. 血流ダイナミクスと組織分布

NMNの血中濃度を正確に測定することは依然として課題です。現在の測定方法には一貫性がなく、HPLCでは高いNMNレベルが検出される一方、LC-MS/MSでは低いか検出不可能とされることがあります。

 

組織分布と効果

脳:NMNは血液脳関門を直接通過しないものの、脳のNAD+レベルを顕著に増加させることが確認されています。

筋肉:経口投与で筋肉のNAD+レベルが変化しない一方、NAD+代謝物の増加が見られることから、NAD+の代謝回転が促進されている可能性があります。

肝臓:肝臓でのNAD+レベルが最も顕著に増加します。

 

投与方法の影響

NMNの効果は、投与方法に大きく依存します。

 

経口投与:主に肝臓で作用し、他の組織への効果は限定的。

腹腔内注射:肝臓、腎臓、白色脂肪組織、膵臓、心臓でNAD+レベルを効果的に増加。

静脈注射:経口や腹腔内投与と異なり、中性脂肪(トリグリセリド)の低下効果も確認されています。

      

まとめ

NMNの取り込みと分布に関する研究は、未解明の点が多く残されていますが、投与経路や腸内細菌の役割、組織ごとの取り込みメカニズムを深く理解することで、NMNの長期的な影響や治療効果を評価する基盤が築かれつつあります。       

 

NAD+前駆体の多様な機能  

NAD+前駆体は互いに関連する経路を共有していますが、それぞれ異なる運命と機能を持ち、単なるNAD+合成の構成要素以上の役割を果たしています。研究が進むにつれ、その複雑さが明らかになる一方、治療への応用可能性を示す重要な差異が指摘されています。

 

4.1 NAD+増強戦略の有効性と治療応用

ニコチンアミド(NAM)

NAMは哺乳類でNAD+の基本レベルを維持する主要な前駆体ですが、治療効果は限定的です。NAMはNAD+合成の初期段階でNAMPT酵素を必要としますが、この酵素はエネルギー依存型で、フィードバック阻害を受けるため、NAMを増やしてもNAD+レベルを大幅に上昇させることは困難です。また、NAMの増加はメチル化を促進し、排泄を通じて効果が減少します。

 

ニコチン酸(NA)

NAは、低用量(50mg)でも「フラッシング」と呼ばれる副作用を引き起こします。この作用はNAD+合成とは無関係なGPR109A受容体の活性化によるもので、NAはNAD+増強剤としての魅力が低いとされています。

 

NMNとNR

NMNとNRは臨床試験で血中NAD+レベルを1.5~2.5倍に増加させることが確認されていますが、腸内で主にNAやNAMに代謝されます。それにもかかわらず、NAやNAMにはない以下の利点を持っています:

 

フラッシングの副作用がない。

サーチュインを阻害しない。

NRは肝臓でNAMやNAより効果的にNAD+を増加させ、NMNは体内に長く留まる。

また、NMNは細胞への直接取り込みが可能で、NAMPT酵素による反応を回避するため、特定の細胞や状況でより高い効果を発揮します。

 

新しい発見

同位体ラベルを使用した研究では、NMNやNRがNAD+を直接増加させるだけでなく、内因性のNAD+合成を活性化する未知のシグナル伝達経路を介して間接的な影響を及ぼす可能性が示されています。

 

酵素のターゲット

NAD+合成に関連する酵素(例:ACMSD)の阻害が、新たな治療戦略として研究されています。この酵素の阻害により、SIRT1活性やミトコンドリア機能の改善が確認されています。

 

4.2 生理的コンテキストと前駆体の有効性

NAD+前駆体の治療効果は、生理的状況によって異なります。

 

組織別の違い

 

NRとNMNは造血を促進しますが、NAやNAMにはその効果がありません。

NRは心臓のNAD+レベルを回復させ、心機能を改善しますが、NAMはその効果を示しません。

NMNはフリードライヒ運動失調症に関連する心筋症モデルで心機能を改善しましたが、NRでは同様の効果が見られませんでした。

加齢による影響

加齢により、腸ではNMNトランスポーターSlc12a8が増加し、NMN補給によるNAD+レベルの回復が促進されます。一方、NAMPTの活性や発現は低下し、NAMによる補給の効果が減少します。この場合、NMNはNAMPTステップをバイパスするため、より高い有効性を示します。

 

ストレス応答

NRK2酵素はストレスに応じて増加し、神経損傷や高脂肪食による筋肉や心臓のストレスを軽減する役割を果たします。NRやNMN補給は、こうした状況下で疾患の重症度を軽減する効果を示しています。

 

結論

NAD+前駆体の選択は、特定の生理的条件や治療目標に応じて最適化する必要があります。NMNやNRは、多様な状況でNAD+を効果的に増加させる有望な候補ですが、前駆体の代謝経路、組織特異性、加齢やストレスの影響を理解することが、より効果的な治療戦略の鍵となります。    

ヒト試験に関する議論      

NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)の補給に関するヒト試験では、有望な結果が得られている一方で、一貫性のない結果も報告されており、今後の研究が課題を解決するための重要な指針となります。NMNの有効性に影響を与える要因(タイミング、用量、対象者)を理解することは、臨床的な意義を明確にするために不可欠です。

 

5.1 NAD+レベルの調節

血中NAD+への影響

一部の試験では、用量依存的に血中NAD+が増加したと報告されていますが、他の試験ではNAD+が検出されない結果もあります。例えば、Okabeらは、NMN補給により全血中のNAD+レベルが倍増することを示し、YamaneらはプラズマNAD+レベルの上昇を報告しました。ただし、全血とプラズマの測定方法の違いが結果に影響を与えています。

 

動的な変化

NAD+レベルは食事、活動、サーカディアンリズム(体内時計)の影響を受け、短期間で変動します。NMN補給後、NAD+レベルは数時間以内にピークを迎え、長期的には安定する傾向があります。

 

組織特異性

NMNは血中NAD+レベルを上昇させる一方で、筋肉組織のNAD+には影響を与えない場合もあります。一部の研究では、NMNが高血圧患者の血中NAD+を回復させることが示されています。

ヒト試験に関する議論

 

5.2 睡眠の質

短期的効果

100~500mgの単回投与や8週間の短期補給では、睡眠への影響は限定的でした。

長期的効果

12週間の補給では、特に昼間の眠気が減少するなど、高齢者において睡眠の質が改善する可能性が示唆されました。

 

5.3 身体パフォーマンス

運動能力

歩行速度や握力などの改善が報告されていますが、すべての研究で一貫した結果が得られているわけではありません。一部の研究では、NMNがインスリン感受性を改善するが、ミトコンドリア機能や全体的なパフォーマンスには影響を与えないとされています。

 

5.4 心血管および代謝健康

ポジティブな効果

一部の研究では、体重、血圧、コレステロール値の低下が観察されました。

混在する結果

他の研究では、インスリン感受性や血管機能に大きな変化は見られませんでした。特定の集団(高血圧患者や高BMIの人々)では、ポジティブな効果が顕著である可能性があります。

 

5.5 グルコース代謝と調節

インスリン感受性

前糖尿病の女性では、NMNが筋肉のインスリン感受性を向上させました。ただし、全身的な効果は観察されていません。

HbA1cとアディポネクチン

NMNはHbA1cを低下させ、抗炎症およびインスリン感受性の特性を示す可能性があります。

 

5.6 全体的な健康感

主観的評価

一部の試験では、アレルギーや関節痛、全体的な健康感、認知の明瞭さ、髪質などの改善が報告されています。

 

5.7 テロメアの延長

30日間のNMN補給(300mg/日)後、血中細胞(PBMC)のテロメアが有意に延長され、90日間の補給でその長さが約2倍になりました。この効果は、NAD+およびSIRT-1経路を介したテロメア安定化と組織損傷の防止に関連している可能性があります。

<h3 class="title-m mt-40">ヒト試験に関する議論</h3>   

 

5.8 副作用と安全性

安全性

単回投与では最大500mg、慢性補給では500mg以下で良好な耐容性が報告されています。600~1250mgの高用量でも、6週間の補給で重大な副作用は観察されませんでした。

長期的リスク

既存のデータでは、NMNは発がん性や腫瘍形成性がないとされていますが、がん進行中の状況ではNAD+増強が悪影響を及ぼす可能性があり、さらなる研究が必要です。

 

結論

NMN補給は安全で有望な治療アプローチである可能性がありますが、その効果は個人の状態、用量、補給期間によって異なります。NMNの長期的な影響を明らかにするために、より多様な集団を対象とした包括的な研究が求められます。    

 

NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)に関する研究は進展していますが、未解決の課題が残されています。以下では、これらの課題を概説し、将来的な研究の方向性について議論します。

 

未解決の課題と今後の方向性

 

6.1 性差による補給効果の違い

NAD+レベルの性差

女性は男性に比べて全血中のNAD+レベルが低い傾向があり、性ホルモンがNAD+代謝に影響を与える可能性があります。例えば、テストステロンの低下はNAD+生成の抑制と強く関連しています。

 

前臨床モデル

NMN補給がインスリン分泌や耐糖能を改善する効果は、女性で顕著に見られ、男性では効果が限定的であることが示されています。このような性差は、基礎的な代謝メカニズムの違いに起因する可能性があります。

 

6.2 個人差の影響

応答性の違い

NMN補給への応答は個人差が大きく、一部の人は「応答者」としてNAD+レベルが大幅に上昇し、「非応答者」は効果が限定的です。応答者はNAD+合成酵素の発現が高い一方、非応答者ではNAD+を消費する酵素の発現が優勢です。

 

併用戦略の必要性

NAD+合成を促進しながら、その分解を抑制するアプローチが効果的である可能性があります。運動やカロリー制限がNAD+消費量の多い個人に利益をもたらす可能性も示唆されています。

<h3 class="title-m mt-40">未解決の課題と今後の方向性</h3>

 

6.3 前駆体以外の調節機能

神経保護作用

NMNはミトコンドリアや神経代謝に関与し、認知機能の向上や炎症の低下を示します。ただし、NMNが過剰に蓄積すると、軸索変性を引き起こす可能性もあります。

 

ミトコンドリアDNAへの影響

NMNはミトコンドリア内でのDNA複製を支え、NAD+代謝物の増加を促進します。ただし、この効果が特定の細胞タイプに限定される可能性があり、さらなる研究が必要です。

 

6.4 腸内細菌叢の影響

腸内細菌とNAD+代謝の相互作用

腸内細菌がNMNやNRの代謝に影響を与え、代謝物プロファイルに地域差を生じさせる可能性があります。例えば、無菌マウスでは腸内細菌が存在する場合と異なる代謝パターンが観察されました。

 

ラベル付き代謝物の挙動

ラベル付きNMN補給後に未ラベル代謝物が増加する現象が報告されており、これがエンドジェナスなNAD+合成経路を活性化する可能性が示唆されています。

 

6.5 生物利用能の最適化

投与方法の課題

経口投与では、胃酸や肝臓での初回通過代謝によりNMNの効果が制限される可能性があります。リポソームやナノカプセル化によるNMNの包接技術が効果的な生物利用能の向上を示しています。

新しい前駆体の可能性

NMNやNRよりも安定性が高く、効果が強いとされるニコチンアミドリボシドハイドリド(NRH)のような化合物が注目されています。ただし、高用量では細胞毒性のリスクがあり、安全性の確認が必要です。

 

6.6 臨床応用戦略の改良

NAD+レベルの最適値の定義

NAD+の「低値」「最適値」「高値」を定義する基準が欠如しており、これが研究結果の解釈を困難にしています。

細胞区画ごとのNAD+プール

細胞内の細胞質、ミトコンドリア、核におけるNAD+の役割を理解することが、より精密な介入戦略を可能にします。

投与量の最適化

用量反応解析により、特定の効果を達成するための中央値(ED50)を特定し、対象ごとに調整された治療計画を策定できます。

 

まとめ

NMNの研究は、治療アプローチとしての可能性を広げるとともに、多くの未解決の課題を残しています。特に性差、個人差、腸内細菌の役割、生物利用能の向上が重要な研究課題として挙げられます。これらの課題に取り組むことで、NMN補給の安全性と有効性をさらに高め、より広範な臨床応用への道が開けるでしょう。     

 

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